新世言  5月号

 人生も塩加減
            倫理研究所理事長  丸山 敏秋
 人の一生は重荷を負いて遠き道を行くがごとし」−−この言
言葉は徳川家康の遺訓としてよく知られている。さらにつづく遺
訓の文言をご存知だろうか。
   急ぐべからず。不自由を常と思えば不足なし。心に望み起
   こらば困窮したるときを思い出すべし。堪忍(かんにん)は
   無事長久の基。怒りは敵と思え。勝つことばかり知りて、負
   けることを知らざれば、害その身に至る。己を責めて人を責
   めるな。及ばざるは過ぎたるより勝れり。
 さすが天下人(てんかびと)の家康、と思わせる含蓄(がんちく)
の深い人生訓である。時代を超えた不易の教えがそこにはある。
 家康は武術においても達人だった。学問が好きで好奇心は旺
盛(おうせい)、忍耐強く、知略に富んでいた。そして長命である。
質素な食事を貫き、生薬を自ら調合して服用し、満七十二歳まで
生きた。
 その家康の側室の一人であるお梶(英勝院)は、聡明にして倹
約家だったことで気に入られ、駿府城(すんぷじょう)の奥向きの
大半を任された。家康の最後の子となる五女・市姫(いちひめ)
を生み、家康没後は女性官僚の最上位を占めた。
 あるとき家康が、居並ぶ家臣たちに尋ねたーー「世の中でいち
ばん美味(うま)い食べ物は何か?」と。「鯛です」「鴨です」・・・。
皆それぞれに好みの食べものを述べ立てる。家康は側に控えて
いたお梶にも尋ねてみた。すかさず彼女は「それは塩です」と答
えた。
 驚いた家康が理由を訊くと、「塩がなければ味を調えられませ
ん」と彼女は言う。「では一番不味(まず)い物は何か?」と尋ね
ると、迷わずお梶は「それも塩です。どれほど美味しいものでも、
塩を入れすぎたら食べられません」と答えた。
 お梶の聡明さを伝える逸話の一つである。なんとも味のある
問答ではないか。

                  倫理研究所理事長 丸山 敏秋










   

 

     


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