新世言

 たとえば、昔から人生の達人たちが等しく口にしてきた「死に対する
覚悟」である。いつか自分も死ぬという絶対の事実に、どう向き合って
覚悟を定めるか。それは、死に対する不安をいかに生のよろこびに転
じられるか、ということだ。死刑囚歌人として知られた島秋人さん(19
34〜67)の『遺愛集』に載る不朽の一首が参考になるだろう。
 助からぬ生命(いのち)と思へば一日のちひさなよろこび大切にせむ     
 この「ちひさな(小さな)よろこび」を感じ取っていく積み重ねが、人生
の質を高めてくれるのではないか。立松和平さんは晩年に『道元禅師』
や『良寛』の名作に挑んだ。コツコツ書きながらきっと、生きる「よろこび」
を見出していたにちがいない。
 寝床に就く前後に、ゆったりとした気持ちで(今日はどんなよろこびが
あったろうか・・・・・・)とふり返り、噛みしめたいものだ。眠りはいよいよ
安らかになる。      
 苦痛は朗らかに受けとめ、「よろこび」に変えてしまおう。苦しみの正
体が、悪魔の仕業でも宿業の報いでもなく、わが人生を軌道修正し、よ
り深めてくれる知らせなのだと心得れば、もう苦しみは痛みでなくなる。
 大きな苦しみはいやでもわかる。それよりも、すぐに忘れてしまうよう
な小さな苦しみにもっと目を向けよう。
 嫌な気がしたとか、腹が立ったとか、淋しく思ったとか、ささやかな苦
痛を感じる場面は日々たくさんある。その都度、心持ちを切り替え、あ
とに残さないように努めれば、小さなよろこびが増していく。心はますま
す和んでくる。
  見つけたるよろこび抱き安らへば明日の春陽も暖かならむ(敏秋)
            
                                新世言 ・4月号

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