新世言

  精神科医の神谷美恵子さん(1914〜1979)が医学生の頃、「らい
病」と呼ばれていたハンセン病患者の施設「国立療養所長島愛生園」に
しばらく滞在した。当時はこの病気の治療法がなく、二千人の患者を収
容する施設では、毎日のように誰かが死んだ。そのとき彼女が創作した
「らいの人に」という詩の一節にこうある。
  運命とすれすれに生きているあなたよ ・ のがれようとて放さぬ そ
  の鉄の手に ・ 朝も昼も夜もつかまえられて ・ 十年、二十年、と                
  生きてきたあなたよ
  なぜ私たちでなくてあなたが? ・ あなたは代ってくださったのだ
  ・  代って人としてあらゆるものを奪われ ・ 地獄の責苦を悩み
  ぬいてくださったのだ
  ゆるして下さい らいのひとよ ・ 浅く、かろく、生の海の面に浮か
  びただよい ・ そこはかとなく 神だの霊魂だのと ・ きこえよいこ
  とばをあやつる私たちを
 未熟な作品だと神谷さんは謙遜しておられたが、「なぜ私たちでなくて
あなたが?」の問いは実に重い。神谷さんはその問いに自分なりの答え
を見出した。見出したからこそ、この詩が生まれた。そしてその答えが、
医師として生きる神谷さんの原点となった。
 もはや変えようのない境遇は、宿命として受けとめるほかない。答えが
見つからない問いに、いつまでも悩まされなくてもよい。しかし人生に対
する問いの中には、いつか自分なりの答えを見出せるものもある。この
人生を深く生きたければ、大事に持ちつつけたい問いがあることを知って
おきたい。
 自分にとって意味のある答えが見出せたとき、運命が大きく拓けるだ
ろう。宿命と運命とは違う。未来に展開していく運命の主人公は、ほかな
らぬ自分自身なのである。 

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